
初めて「パラリンピック」と名付けられた1964年東京大会から60年、聖地・国立競技場で第3回NAGASE CUP開催
2024.11.9
世界パラ陸上競技連盟(WPA)公認の陸上競技大会「NAGASEカップ」が今年24年10月12日、13日に国立競技場で開かれた。NAGASEカップは2022年7月に、東京・駒沢競技場で初めて開催され、23年には、東京オリンピック・パラリンピックが行われた国立競技場に場を移し9月に開催、今年で第3回を迎えた。
NAGASEカップは、年齢、国籍、障がいの有無に関係なく誰もが参加できる陸上競技大会。2018年にブラインドランナーの和田伸也選手を社員に迎えたNAGASEグループが、和田選手の活躍を受けてアスリートにチャレンジする機会を提供できないかとJPAと話し合いを重ね22年、初開催に至った。
10月12日朝、見事な秋晴れの下、一般社団法人日本パラ陸上競技連盟(JPA)増田明美会長は「こんな素晴らしい大会を開いてくださる長瀬産業のみなさん、本当にありがとうございます。ウォーミングアップも笑顔でされていましたが、大人から子供、車いすの選手、視覚障害の選手、デフリンピックの選手も競技します。シンガポールから32名も参加しています」と東京大会のレガシー、オールインクルーシブが本競技会で具現化されている点を強調した上で「みなさん今日はこのお天気ですから、楽しんで自己記録を更新してください。はりきって、楽しんで、笑顔満点で競技を終えるよう応援してください」と開会の言葉を結んだ。
特別協賛である長瀬産業株式会社・朝倉研二代表取締役会長は、増田会長に続き「パリ・パラリンピックの記憶も新しい中、第3回(大会)を国立競技場で開催させていただきます」と開会を宣言。ちょうど60年前、1964年10月10日に東京五輪の開会式が旧・国立競技場で取り仕切られたレガシーに言及。「東京五輪を機に設定されたパラの大会を(60年という区切りに)開催でき、うれしい限りです。(24年から)ワールドランキング対象大会に認定され、NAGASEカップも新たな一歩を踏み出しました。競技者にとって2028年ロサンゼルスに向けた一歩となれば嬉しい」と意気込みを語った。
「パラリンピック」は1960年、ローマで開催された国際ストーク・マンデビル大会を遡って第一回大会と制定しているが、実際に「パラリンピック」の名称が使用されたのは64年の東京大会であり、東京五輪がパラリンピックのスタートでもあった。そのレガシーの継承からか、第3回となった本大会もパラアスリートにとっては、まさに真剣勝負の場。WPA公認の為、数々の新記録が今年も誕生した。
三島楽人、岡田和輝、森平蔵、臼木大悟(T20)による男子4×400mリレーでは3分22秒05の世界新記録を樹立。走幅跳でパラリンピック4大会出場の山本篤が男子800m(T63)に出場、こちらも2分44秒05の世界新をマークした。
パリ・パラリンピック代表として男子100m(視覚障害T13)で銅メダルを獲得した川上秀太は、NAGASEカップでは男子200mを21秒92で駆け抜け、アジア新記録を叩き出した。同じく代表の赤井大樹も800m(知的障害T20)で1分56秒66のアジア新と気を吐いた。
また大会の新しい試みとして、競技場のコンコースにさまざまな体験コーナーが設けられ、アスリート、観客、小学生から大人まで、インクルーシブや多様性について考えるきっかけの場を提供した。
子ども向けに「NAGASE CUP」のロゴが入ったタトゥー体験などは微笑ましいところ。義足体験では、ほんのわずかな距離ながら義足のまま駆け出すためのレーンが設けられており、大半の体験者は義足で「走る」行為の難易度を思い知った。また25年に開催されるデフリンピックでは、音声にまつわる障害のあるアスリートに向け、テクノロジーを駆使したユニバーサル・コミュニケーションが用意される予定となっている。
例えば受付には衝立状の透明ディスプレーが設置され、音声での会話が不応でもディスプレーに会話の内容が表示されるツール、多言語会話に対応可能な携帯ディスプレー、会場のアナウンスをテキストで表示するディスプレー、手話をリアルタイムでテキストに変換するシェアトークなどが期待されている。この日、本会場では警告音などをオノマトペで変換するディバイスの体験コーナーも用意されていた。
東京五輪から始まり、NAGASEカップ、パリ・パラリンピック、そして東京デフリンピックへと続く中で、NAGASEカップは多様性とインクルーシブな価値観を実現する重要な場となっている。その流れを象徴する取り組みが、次世代のスポーツ文化を育んでいると言えるだろう。
朝倉会長は「健常者、小学生、中学生、海外から約1700名のアスリートが参加。みなさん、日頃の練習、鍛錬の成果を発揮し、楽しんでください」とメッセージを送る一方、「誰でも参加できるという大会の特徴から、参加者が増えすぎてしまって」と嬉しい悲鳴さえ上げていた。
パラアスリートも健常者も、小学生もシニアも、誰もが陸上競技の楽しさを、その素晴らしさを発揮することができるインクルーシブな大会は、今後の日本の、また世界の陸上の新しい時代を切り開いて行くのかもしれない。
