NAGASE CUP 2024 特別企画
晴海ふ頭公園 ブラインドラン
体験イベント 開催
2024.07.19
Report
NAGASE CUP 2024 特別企画 「パラリンピアン直伝!目の見えない世界でブラインドランを体験してみよう」
パラリンピアン直伝のブラインドラン体験会が6月23日、東京2020オリンピック・パラリンピックで選手村の一部となった晴海ふ頭公園で開かれた。視覚障害(T11)陸上競技選手・和田伸也選手とガイドランナーの長谷部匠選手(ともに長瀬産業)が講師を務め、参加したおよそ10名の小学生およびそのご家族と交流した。イベントは3部構成(トークショー、ブラインドラン体験、感想発表会)で行われた。
トークショーのパートではまず2人が自己紹介。和田選手は「3年前に東京パラリンピックがあって、選手村だったこの場所で僕も生活して、レースに出ていました」と懐かしさを口にした。長谷部選手は「普段は和田選手の目となってサポートしたり、大会では一緒に走る『伴走者』という役割をしています」と話した。
和田選手は全盲となった経緯などを振り返りながら、「目が見えなくなったら何に困ると思いますか?」と子どもたちに呼びかける。
「怖い」
「何もできなくなる」
「飛行機に乗れなくなるかも」
子どもたちが口々に発する率直な回答にうなずきながら、和田選手は言葉をつなぐ。「僕もどうしたらいいか分からなくなったけど、いろんな人にサポートしてもらうことで、『できることなんてたくさんある』と思えるようになりました」。周囲の助けを得ながら前を向けるようになった経験を明かした。
「できること」の一つが、ブラインドランだ。「目が見えなくなった頃は元気がなくなっていましたが、日本代表選手として走らせてもらって、どんどん元気になりました。みんなのお父さんお母さんより年上かもしれないけど頑張って走って、今が一番元気です」と胸を張った。
「スポーツができるんだと知った後も、最初はパラリンピックのこともあまり知りませんでした」と和田選手。ブラインドマラソン協会の強化指定選手に選ばれて実力を伸ばしたのに伴い、国際舞台への意欲をかき立てられるようになったという。今夏のパリ大会でパラリンピックは自身4回目の出場となる。
「一生のうちにやりたいことって、ありますか?」
子どもたちから素朴な疑問が寄せられた質問コーナー。東京2020パラリンピックの5000mで銅メダル、1500mで銀メダルを獲得しているが、金メダルはまだない。「金メダルを取るまではパラ陸上は辞められないなと思っています」と、頂点への意欲を口にした。
「普段の生活はどのように送っているんですか?」
この疑問に対して和田選手は、白杖を使いながら点字ブロックを頼りに歩く日常を紹介。食事をする時は、食卓上の配置を教えてもらいながら自分で箸を使うという。「左にごはん、右手にみそ汁、目の前にお茶を置きました――と教えてもらい、場所を変えないようにして自分で食べます」と子どもたちにレクチャーした。
ただ、ときおり予想外の“トラブル“に見舞われることもある。
合宿などでは長谷部選手と一緒に食事を摂るが、見た目だけで品目が判別できないケースも。「この魚はなに?本当にサバ??」といったやりとりや、長谷部選手は「ヨーグルトだと思ったら杏仁豆腐だったことがありました」というエピソードを紹介。会場は笑いに包まれた。
40分弱のトークショーと質問コーナーを終えた後は、ブラインドランを実際に体験した。当日はあいにくの雨天となったため、公園内の屋内施設にて実施。親子でペアを組んで、どちらかがアイマスクをして視界を遮断。もう一人がガイド役となってサポートする。カラーコーンに沿って歩き、高さ30cmの段差を上り下りし、水たまりに模したエリアを避けるコースを歩いた。
ただ横にいればいい、というわけではない。「わかりやすく声をかけてあげてくださいね」と長谷部選手。その「わかりやすさ」とは、具体的に示すことだ。人によって受け止め方が異なる主観的な言葉ではなく、「あと30cm」「あと1m」「左手側に90度」など、数値でイメージを共有していくという。
とはいえ、子どもたちには難しい様子。1年生の男の子は、アイマスクをつけた父親をガイドしながら「水たまりだから左に行こう」「もうちょっと足を上げて?」と指示する。自身もアイマスクをつけて体験し、「障害物をよけるのが怖かったです。和田さんもいつもこういうふうに暮らしていると思うと、怖そうだと思いました」と理解を深めた。
父親は「危険はないと分かっていつつも、何があるか全く想像できないのは不安で、自然と歩幅がすごく狭くなっていました。声かけがないととてもじゃないけど進めないです」と振り返った。
トークショーとブラインドラン体験が終わった後は、子どもたちが感想をフリップに書いて発表した。
「周りが見えないからどんなものがあるかわからなくて怖かったです。何かあったらどうしよう?と思って。声があったから歩けました。和田さんはいつも見えなくて大変だと思うけど、すごいなと思いました」
「段差とかをどうやって言えばいいのか、伝えるのが難しかったです」「目が見えない状態で一人でいると、段差とか障害物があるかどうかがわからない。急にぶつかったりして危ないので、生活しづらいと思いました」
人間の知覚の割合は、視覚が83%を占めるとされる。それが遮断された世界はどのようなものか、一端を垣間見た子どもたち。不便さや恐怖心を実感して視覚障害への理解を深めただけでなく、そうした条件下でもガイドと信頼関係を作って走る難しさなどを知った。
このフリップは、第3回NAGASE CUP(10月12〜13日)の会場・国立競技場に飾られる。
記念撮影をして解散――の予定だったが、最後にサプライズも。当日は梅雨真っ只中であいにくの雨。しかし、イベント終了間際に奇跡的に雨が上がったため、急遽外に出て、実際に和田選手と長谷部選手が走りを披露。短いガイドロープを握り合いながら風を切って走る姿に、参加者からは歓声や驚きの声があがった。最後は子どもたちも一緒に走り、和田選手のガイドロープを持って先導。パラリンピックのメダリストに伴走する、貴重な体験の場にもなった。
イベントを振り返って和田選手は、「最後はみんな元気いっぱいに外で走ってもらえました。実際に私と接してブラインド体験もして、より身近に感じてもらえたのではないかと思います」と話した。
もう一つ伝えたいのは他でもなく、挑戦する姿勢だ。「パラリンピックを目指して頑張っている姿を通じ、自分たちの学校生活でもいろんなチャレンジしてもらえれば」と和田選手。全幅の信頼を置く相棒・長谷部選手との“二人三脚”で、共生社会への理解を広げながら、チャレンジ精神の大切さを伝えていく。