廣瀬俊朗氏×和田伸也選手×長谷部匠選手、<br>特別対談記事を公開しました

長瀬産業株式会社に所属する和田伸也選手、
ガイドランナーの長谷部選手が、
ラグビー元日本代表キャプテンの廣瀬俊朗選手と対談しました。

2022.11.11

Column

廣瀬俊朗氏×和田伸也選手×長谷部匠選手、
特別対談記事を公開しました

第1回NAGASEカップの開催を前に、アスリートの社会的役割、アスリートと企業の理想的な関係などをテーマに、長瀬産業株式会社に所属する和田伸也選手、ガイドランナーの長谷部選手が、ラグビー元日本代表キャプテンの廣瀬俊朗選手と対談しました。

お互いの印象はいかがですか?

廣瀬 この歳になるまで競技をされている和田さんはすごく格好いいと思います。僕は35歳くらいで「シンドい」となってしまいましたが、和田さんはモチベーション高く競技を続けられている。

和田 廣瀬さんのお名前は前から存じ上げていました。私も目が見えていた高校生のときまでラグビーをやっていました。弱いチームではありましたけど…。日本代表のキャプテンを務められて、2015年のワールドカップ(W杯)で歴史的な快挙も成し遂げられた廣瀬さんにお会いできて本当にうれしいです。

廣瀬さんは今、どのような形でパラスポーツと関わっていますか?

廣瀬 僕は車いすラグビーの選手と接することが多く、実際に体験する機会もありました。今はOne RugbyというNPOの理事長をやっていて、デフラグビーやブラインドラグビーのイベントを開催したりもしています。その中で、例えば子どもたちと、耳が聴こえない、目が見えない人とどうやってコミュニケーションをとったら伝わるか、といったことを考える。そのような活動をしています。

ラグビーと陸上の違いや、それぞれの競技への印象をお聞かせください。

和田 ブラインドランナーは、ガイドランナーと一緒に「テザー」と呼ばれるロープ(トラック用が30cm、マラソン用が50cm)を握って走ります。東京パラリンピックでは長谷部くんとこれを握って走りました。個人競技のようで、2人の連携も必要です。ラグビーと共通する部分もあるなと思っています。

廣瀬 ラグビーをされていた時のポジションはどこだったんですか?

和田 中学生の時は、廣瀬さんと同じスタンドオフをやっていました。その意味でもお会いできて光栄です。

廣瀬 うれしいですね。僕はブラインドラグビーを一度体験したんですが、怖くて、立っているだけでした。キックもやりましたけど、ボールに全然当たらなかった。「こんなに上手くいかないことが世の中にあるんだな」と思うほどの体験でした。なので、和田さんのように走るのも、怖さがあるだろうし、ガイドと息を合わせるのも色々とコツがあると思うので、本当にすごいなと感心しながら見させていただいています。

お二人にお伺いします。目標達成のために意識していることはなんですか?

和田 4年に1度のパラリンピックでメダルを獲得するという大きな目標がまずあります。私は複数の種目を走るのですが、長距離種目は時期によってトラックレースに出場したり、マラソンに出たりしています。時期によってトレーニングの期分けをして、スピードやスタミナを強化する時期を経て、地元のレースや公認レース、アジアパラ、世界パラ…とその時々の目標をクリアしていきます。その積み重ねがパラリンピックにつながります。東京パラリンピックでは1500m銀メダル、5000m銅メダルという大きな目標にたどり着き、積み重ねがやはり大事だと感じました。2024年のパリパラリンピックに向けても、同じような流れで進んでいきたいと思っています。

廣瀬 僕も、積み重ねはすごく大事なことだと思っています。加えて、「目標」の上に「目的」があるのかなと。なぜその目標を達成したいのか、どんな世界を作りたいのか、といった目的があった上での目標だと思うので、まずは目的をしっかり作り、その後に目標設定が上手くできるかどうかだと思います。アスリートはよく「勝ちたい」「日本一になりたい」と言うんですけど、なぜ日本一になりたいのか、どんな世界を作りたいから日本一になりたいのか。そこを上手く設計できるかどうかが僕はすごく大事だと思っています。

アスリートと企業の理想的な関係についての考えはありますか?

廣瀬 僕を個人的にサポートしてくださっている企業もありますが、ただサポート頂くだけでなく、プロジェクトなどに継続して一緒に取組みながら何か新しいものを作っていくことが、お互いにハッピーな形ではないかと思っています。また、アスリートが「ゲスト側」になりすぎないことも大切だと思います。僕たちは僕たちで実現したいことがある。アスリートが企業と一緒に組んで新しいものを生み出すことで、新しい価値を提供していけると信じています。

和田 私が長瀬産業に所属しているように、企業にパラリンピック選手やオリンピック選手が所属することによって、社員の皆さんに活力や元気を与えられるのではないかと思います。スポーツで頑張っている姿を見て、皆さんの仕事に持ち帰って、「自分も頑張ろう」という前向きな気持ちになっていただければ嬉しいです。そういう部分でお互いに相乗効果があればいいなと思います。また、私の場合は、ブラインドに対する理解促進など、障がいのことを皆さんに分かっていただく役割もあると考えています。

アスリートの社会における役割についてはいかがでしょうか?

長谷部 私が競技以外で和田選手に対して日常的に行っている身近なサポートを、一般の方々も自然とできるようになればいいなと思います。「障がいを持たれている方のサポートは難しい」ということではなく、誰もがより簡単にサポートできる社会に向けて、一歩踏み出す勇気とか、「サポートは難しい」という概念を取り除けるような活動や取り組みができればいいなと考えています。

和田 視覚障がい、中途失明の人間がいるんだということを知っていただいて、中途失明者が困っていることや、そういった人たちがどのように日常生活を取り戻していくのかを知っていただく活動が、現在の私の役割だと考えています。陸上競技やレースを通じて世間に訴えかけることはもちろんあると思いますし、一方で講演活動などを通じて障がいへの理解を進めていくことも自分自身の使命かなと思っています。

廣瀬 スポーツの価値の一つは、「やってみる」とか、体感することだと思っています。座って何かを学ぶということではなく、やってみて、体感として学ぶ。これができるのがスポーツではないか思っているので、そのあたりをより多くの皆さんに伝えていけたらと思っています。

もう一つ、ラグビーが持っている多様性やインクルージョンといった価値があります。皆それぞれ違う個性があって、そのいいところを上手く使いながら皆で一つの目的のために頑張っていく。その素晴らしさを伝えられるのがラグビーというスポーツを上手く活用しながら、子どもたちやビジネスのフィールドなどに対して何か貢献できたらと思います。

NAGASE カップに期待することはなんでしょうか?

長谷部 NAGASE カップは健常者のスポーツとパラスポーツの融合となる大会です。パラだけの大会は壁を「作って」はいませんが、壁を「感じる」部分もあります。健常とパラのアスリートが一緒に競うことで、パラスポーツを知らない一般の方々にパラスポーツの魅力を伝えられるような大会にしていきたいです。僕自身、パラスポーツに携わることで大きなパワー、生きる活力をもらい、日々頑張るエネルギーになっています。僕自身ももっと頑張らないといけない気持ちになりますし、パラスポーツを見ていただけると一般の方々にもそのような気持ちが必ず芽生えると思います。まずは知っていただいて、魅力を感じてもらって、よりエネルギーを与えられる大会になればと思っています。

和田 東京パラリンピックが終わった後、いったん盛り上がった機運が下がるのではないかという予測がされていたところに、NAGASEカップとして、一つの企業がスポンサーをする初めてのパラ陸上の大会が開催されることになった。NAGASE社員の皆さんだけでなく、いろんな企業の皆さんに興味を持っていただき、東京で盛り上がった機運をパリにつなげていくきっかけ、パラ陸上をもっと身近に感じてもらえるきっかけになればと思います。東京パラを見ていただけてなかった方もいるでしょうし、私たちを知ってもらう機会は一つでも多い方がいいです。NAGASEカップが今後も定期的に開催されて、そういう役割をはたしてもらえたらなと思います。

廣瀬 東京オリンピック・パラリンピックが終わってから、特にパラリンピックの方では「スポーツをどのように盛り上げていくか」が大きな課題になると思います。その中で、企業がサポートして大会が開催されることは、社会的意義がすごく大きいと思ってワクワクしています。

パラリンピックをテレビでご覧になっていた方は多いと思いますが、やっぱり実際に競技を見た時のスピード感や躍動感を見ると、また感じることが全然違うと思います。パラスポーツも健常者スポーツも一緒に競技をすることが当たり前の社会になる。そのきっかけの一つになり得る大会だと思います。スポーツ界にとっても大事な大会になるかもしれません。

廣瀬俊朗
株式会社HiRAKU 代表取締役
1981年生まれ。元ラグビー日本代表キャプテン。
現在は株式会社HiRAKU代表取締役として、
ラグビーに限定せずスポーツの普及、教育、食、健康に重点をおいた様々なプロジェクトに取り組んでいる。
2020年10月より日本テレビ系ニュース番組『news zero』に木曜パートナーとして出演中。

和田伸也
2018年9月長瀬産業株式会社入社
<主な成績>
2021年東京パラリンピック
1500m(T11)銀メダル / 5000m(T11)銅メダル / マラソン パラリンピック新記録(T11)
2016年リオパラリンピック
1500m(T11)、5000m(T11)、マラソン、全種目入賞
2012年ロンドンパラリンピック
5000m(T11)銅メダル

長谷部匠
2022年2月長瀬産業株式会社入社
高校から陸上競技を始める。高校3年時に近畿大会出場、卒業とともに陸上競技を引退するも、
2019年4月に和田選手と出会い、伴走をはじめる。
2021年東京パラリンピックにて、1500m(T11)、5000m(T11)、マラソンの全種目で和田選手の伴走を勤めた。

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