NAGASEカップが切り拓く新たな陸上競技の可能性

NAGASEカップが切り拓く新たな陸上競技の可能性

2025.9.20

パラアスリートと健常者が共に競う場の意義とは


陸上競技界では近年、パラアスリートと健常者が同じフィールドで競技を行う「インクルーシブ大会」への注目が高まっている。その先駆けとなっているのが、国立競技場で開催されるNAGASEカップだ。東京陸上競技協会で競技運営を担う関幸生氏に、この革新的な大会への関わりと、陸上競技が持つ新たな可能性について聞いた。


世界の常識を日本に導入したかった

―NAGASEカップとの関わりについて教えてください。

第1回大会(2022年)からNAGASEカップに関わっています。元々、日本パラ陸上競技連盟(以下、JPA)の競技運営委員長、常務理事をしていた関係で、長瀬産業とJPAの間に入らせていただきました。長瀬産業がパラ陸上大会へのスポンサードを検討されていた際に、「障がいのある選手だけではなく健常者も一緒に参加できる大会を作ったらどうか」という提案をさせていただきました。

―なぜ健常者とパラアスリートが一緒にやる大会を提案されたのでしょうか。

世界では当たり前のことだったからです。例えばオーストラリアでは、健常者が出る陸上連盟の大会――極端な話、国内選手権に障がいのある選手も参加して一緒に競技をやっています。

私は国際パラリンピック委員会の国際審判の資格を持ち、アジアパラ大会や世界パラ、パラリンピックなどで競技の責任者として参加していましたが、健常の競技者とパラの選手が一緒の大会に出て競い合う姿は見聞きしていました。

日本では通常の競技に関わった人が、パラの選手をどこまで受け入れて良いのかわからないという不安があったんです。


東京パラリンピックが生んだ理解者

―大会開始当初の手応えはいかがでしたか。

第1回大会は駒沢(オリンピック公園総合運動場陸上競技場)で開催しました。正直、これだけ大々的に障がいのある選手を受け入れて、しかも日本陸連の公認大会でうまくいくかどうかという不安はありました。

ただ、終わってみたら競技役員からも好意的に受け入れられ、東京陸上競技協会の幹部からも「来年は国立競技場でやったらどうか」という話が出ました。障がいの有無に関わらずすべての選手が出場できる大会を開催することは「良い」という思いを皆さんに持っていただけたのかなと思います。

また、2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックの影響は非常に大きかったと思います。オリンピックの審判員の8割方がパラリンピックも経験して、パラリンピックの選手の競技会も普通の競技会と変わらないという意識を持ち始めたタイミングでした。


陸上競技ならではの「真のインクルーシブ」

―他のスポーツとの違いをどう感じますか。

水泳は障がいの有無に関わらず、選手が一緒に泳いだりもしていますが、車いすラグビーやバスケットでは、車いすと健常者が一緒にプレーするわけにもいきません。他の競技では「インクルーシブ」をスポーツの中で体現するのは難しい部分もあります。

陸上はほとんどの種目に関して一緒に競技できることが魅力でしょう。このNAGASEカップのすごさは、記録順に組み合わせを決めているので、本当に一緒に走っているんです。


同じルールだからこそ生まれる公平性

―運営面で特に配慮していることはありますか。

スポーツはルールがあるからこそ楽しいと思うんです。フェアネス、公平性というのは、障がいがある方々を大目に見るのではなく、同じルールの中で正しく競技した競技者を正しく評価することです。

例えば、トラックの内側に入り込んでしまった選手を「障がいがある選手だから大目に見ましょう」とやってしまった場合、400mのレースでその選手は400m走っていないわけです。一緒に走った他の選手から見れば、正しく400m走った選手と同じ土俵で比較するのは逆に不公平になってしまいます。

インクルーシブな競技会だからこそ同じルールで。健常者の選手から見て不公平感を一切与えないというのは、競技運営として非常に大事なことだと思います。


全国への波及効果

―大会の影響はどう広がっていますか。

NAGASEカップの影響もあると思いますが、今は通常の陸上大会にパラの選手がエントリーするようになってきています。

宮崎の大会に行った際も、宮崎陸上競技協会の方が「こんなにパラ選手がいっぱい参加するんだったら世界パラ陸連の公認の申請をしておけばよかった」と言うぐらい、自然に参加する土壌ができています。

他県からもNAGASEカップへの視察依頼がありました。こういったインクルーシブな大会が地方でもどんどん開かれればいいと思っています。福岡や宮崎でも同様の話が出ており、全国の大会に大きな影響を与えているのではないでしょうか。


※本インタビューは2025年8月に実施

【後編】競技力向上と社会貢献を両立する陸上競技の未来

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