
競技力向上と社会貢献を両立する陸上競技の未来
2025.9.21
NAGASEカップが描く共生社会への道筋
前回は、NAGASEカップの意義と陸上競技が持つインクルーシブの可能性について伺った。今回は、大会が競技力向上や選手育成に果たす役割、そして社会全体への影響について、関幸生氏の考えを聞く。
競技レベル向上への確かな手応え
―NAGASEカップが競技力向上に果たしている役割はいかがですか。
公認の競技会でやることによって、当然ルールはしっかりと適用します。フライング、不正スタートの場合は当然失格ですし、パラの競技者についても失格になった選手は何人もいます。世界で戦うことを考えた時に、正しいルールを知っていることが次の大会でミスを繰り返さないことにつながります。
また、パラの選手の競技人口は非常に少ないため、パラだけ単独の競技会をやっても、コンペティティブな大会はなかなか難しい。そうした中で、健常者も含めて同じ力を持った選手たちと走ったり跳んだり投げたりできるというのが、モチベーションの意味でも違うでしょうし、競技力向上に大きく貢献していると思います。
―選手育成の観点ではいかがでしょうか。
日本陸連に登録していない方の部も設けているので、パラの陸上を始めたばかりの方も受け入れています。そういう方がまず参加してみて、よりレベルの高い他の競技者を見ることができ、次は公認の部で健常の強い選手と走れるのかなということで練習に励むという好循環になっています。
社会の意識変革への貢献
―社会全体への影響はどう感じていますか。
競技役員として参加した皆さんは、「これだけ異なる障がいがあるんだ」ということを大会のプログラムや競技場のスクリーンを通して認識を深めています。おそらく普通に電車に乗っていて、そういう障がいのある方々を見かけた時に、どういう障がい特性があるのかが自然と見て分かるようになっていると思います。
通常の生活の中で、そういう障がいのある方々とここまで交流する機会はなかなかありません。NAGASEカップを通じて、それぞれの障がい特性を理解することで、日常生活の中でも何かしらのプラスになっているでしょう。
印象深いエピソード
―印象に残っている出来事はありますか。
長瀬産業がインスタグラムでアップした、義足の選手と視覚障がいの選手と健常の選手が一緒に競技している写真を見たときに、「うまくいったな」と競技運営の立場としても感じました。
初めて国立競技場で開催した時に、競技が全部終わって選手がすべて退場した後に、長瀬産業の社員の皆さんと一緒に競技場のゴミ拾いのために、照明の落ちた真っ暗な中で観客席を一周したのも思い出です。
でも一番は選手の笑顔ですね。選手がいい記録を出して喜んでいる姿を見れば、やっぱりみんな嬉しいという、競技運営に関わる人間も、より良い会場で提供してあげたいなという気持ちになります。
未来への展望
―今後の理想像をお聞かせください。
より多くの皆さんに、こういった大会があることを認識していただきたいです。将来的には、パラの記録更新だけではなく、健常の日本記録を狙うような選手も一緒に出てもらって、同じ土俵の中で「日本記録も出ました、パラの世界記録も出ました」とアナウンスできるような大会になればいいと思います。
国立がNAGASEカップに代表されるインクルーシブ陸上大会の聖地のような場所になり、お互いのトップ選手がこの場で切磋琢磨する。日本の両方のトップ選手が一緒に走るというシーンがNAGASEカップで実現すれば楽しみです。また、今年も海外からの参加希望の声を耳にしています。今後、「世界のインクルーシブな大会」という形に持っていける可能性があるのではないでしょうか。
社会へのメッセージ
―最後に、社会に伝えたいメッセージをお願いします。
パラのトップ選手が出ているのはもう毎年のことですが、より記録を持った健常の選手も年々増えています。健常の選手にも「出ていいんだよ、陸連でちゃんと記録公認、しかもワールドランキングコンペティション、世界に記録が通じる大会なんだ」ともっとアピールしていきたいです。
陸上競技の良さは、多くの種目で一緒に競技できることです。同じルールの下で正しく競技した全ての競技者を正しく評価する。これこそが真のインクルーシブだと思います。NAGASEカップが、そんな共生社会実現のモデルケースとなることを願っています。
※本インタビューは2025年8月に実施