CEO Message

代表取締役社長 朝倉 研二代表取締役社長 朝倉 研二

今後の持続的成長の伴は事業活動を通じた社会課題解決への貢献

2021年3月期を振り返るにあたっては、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を避けて通ることはできません。社会・経済環境が激変したわけですが、コロナで変わったというよりも、もう少し先に起きるはずだった様々な変化が一気に進んだと認識しています。第1四半期は全てが不透明な状況でしたが、中国の経済活動がいち早く戻りグループの業績も回復基調となりました。

現在、経済の回復は地域差がありますが、2021年度の下半期以降は経済活動が徐々に正常化すると見ています。グループへの影響が大きい自動車関連ビジネスでは半導体不足が取り沙汰されていますが、一年を通じてみれば生産台数は回復するでしょう。エレクトロニクス関連ビジネスでは米中摩擦の懸念はあるものの、半導体関連、情報通信関連の需要により堅調に推移すると見ています。

今後の事業環境では、社会課題の解決が鍵になるでしょう。お取引先の姿勢・要求も大きく変わっており、その重要性を、単年度計画においても、5カ年の新中期経営計画においても重く受け止めています。社会課題の解決につながる事業は「やらなければいけない」ものであり、いかに事業につなげていくかが課題ですが、NAGASEだけでできることは限られます。様々な形でのパートナーシップが重要度を増していくと考えています。

前中計を振り返って
定量目標は未達も、成長への道筋をつける

前中期経営計画「ACE-2020」(以下、前中計)の5年間は、「変革期」と位置付けていました。その意味でまず、変革を起こすことはできたと思います。

前中計の柱として掲げた「収益構造の変革」と「企業風土の変革」について順番にご説明します。まず、「収益構造の変革」については一定の成果を上げることができました。「ポートフォリオの最適化」と「収益基盤の拡大・強化」の2つの方針のうち、前者については注力領域のライフ&ヘルスケア分野とエレクトロニクス分野を中心に成長投資を実行し、確実に業容を拡大しました。大型のM&Aとなった2019年の米国のPrinovaグループ買収で事業ポートフォリオが大きく変わり、アジア偏重であった地域ポートフォリオも改善して北米並びにヨーロッパの存在感が増しました。

一方で、「収益基盤の拡大・強化」についてはインオーガニック成長が計数面で寄与できず、定量目標を達成することができませんでした。経営トップとして深く責任を感じています。また、5年間で多くの事業にトライできた点は評価していますが、成長投資に対する計画立案段階での蓋然性が乏しかったことが目標未達の原因だと反省しています。一方で、環境関連ビジネスやマテリアルズ・インフォマティクス(MI)といった、将来の事業の柱となり得るビジネスの種をまくことができた点についてはプラスに捉えています。

もう一つの柱である「企業風土の変革」では、若い世代、及び製造部門を中心とするグループ会社が主体性を持つようになった点を高く評価しています。また、目標達成に対する執着が不足していた企業風土からも脱却することができたと思っています。こうした変革の芽を、新しい中期経営計画にもつなげていきます。

「ACE 2.0」に込める想い
“ありたい姿”の実現に向け、“質”を追求する

私たちは創業200年となる2032年の“ありたい姿”として、「温もりある未来を創造するビジネスデザイナー」を掲げています。ビジネスデザイナーという言葉は私が就任してからずっと使い続けていますが、研究開発やDX、ものづくりなどを通して、お取引先との関わりの中でビジネスをデザインできる企業体になりたいという想いを込めています。「化学系専門商社」という枠にとらわれず、誰の真似をすることもなく、NAGASEが新しい業態を作るぞ、という気概を持っています。

この“ありたい姿”の実現に向けて、2021年度からの5カ年計画となる新中期経営計画「ACE 2.0」を策定しました。前中計期間の5年間、特にその後半の数年で、企業が社会価値を創出することへの期待感が急速に高まりました。そのような中で、次の5カ年を、当初設定していた「成長期」と表現すべきか考えた結果、「質の追求」を進める期間と位置付けることにしました。経済価値、社会価値のベクトルは必ずしも完全に一致するわけではありません。どうバランスをとりながら進めていくかが大きな課題になると考えています。

「ビジネスデザイナー」として経済価値と社会価値を創出

事業活動の“質”を高め、経済価値と社会価値を創出し、企業風土を変革

新中計の柱には、前中計で見られた変革の兆しを止めることなく推し進めるため、引き続き「企業風土の変革」と「収益構造の変革」を掲げました。

「企業風土の変革」では、3つの方針を策定しました。一つ目は、「経済価値と社会価値の追求」です。サステナブルな社会の実現がグローバルに求められる中で、トップラインを伸ばしビジネス規模の拡大だけを追い求めていてはいけないというのが経営者としての認識です。もちろんNAGASEグループはこれまでも事業活動を通じて社会に価値を提供し、人々が快適に暮らせる安心・安全で温もりある社会づくりに邁進してきたのですが、今後の方向性としてより一層サステナビリティを追求する組織とマインドをつくり上げることが必要だと考えています。

二つ目は「効率性の追求」です。資本効率性の向上や、各ビジネスの利益率を上げることなどを含め、一つひとつの事業活動にかかる効率性を追求します。資本効率性に関してはROIC(投下資本利益率)を指標として掲げています。各事業で算出したROICをもとに「改善」「基盤」「育成」「注力」の4象限に分類・分析し、事業戦略を再考していきます。もちろん多くが「育成」事業や「注力」事業になればより健全な状態といえますが、現実にはあり得ません。NAGASEグループの事業では総じて「基盤」事業が強く、それによって安定した事業ポートフォリオが構築できているわけですが、一方で前中計の反省からインオーガニック事業に取り組んでいかなければという危機感もあります。ROICは既存事業を「注力」事業にシフトしていく際の判断指標の一つとして意識していきます。

三つ目は「変革を推進する人財の強化」です。NAGASEグループにとって従業員は重要なステークホルダーであり、従業員が活き活きと働ける職場環境の質を上げることは経営者の大切な使命です。従業員が働くことに喜びを感じることができれば、それがお客様へのソリューション提供やビジネス拡大の起点となり、最終的に事業活動を通じた経済価値と社会価値の創出につながると確信しています。

N-Sustainable事業の拡大により「収益構造の変革」を推進

「収益構造の変革」では、全社規模の事業入替や資源再配分の実施による収益性・効率性の追求、既存事業の強化に加え、“持続可能な事業”(N-Sustainable事業)の創出に取り組みます。

N-Sustainable事業では、将来世代に持続可能な未来を残し、かつ革新的なサービスや技術を通じて「利益を生み出す解決策」を提供することを目指します。前中計でもインオーガニック事業の成長を掲げて新規事業を推進してきましたが、「ACE 2.0」では特にサステナビリティを強く意識し、社会・環境課題に応える新たな提供価値を事業化していくことを明確に示しました。5年後に営業利益ベースで50億円、全体の15%程度の規模を目指します。決して簡単ではない目標ですが、これを達成することが、“ありたい姿”に向かう重要な基盤になると考えています。

N-Sustainableの事業領域として「環境・エネルギー」「次世代通信関連」「ライフ&ヘルスケア」の3分野を定めました。どの分野も全くのゼロからスタートするわけではなく、例えばライフ&ヘルスケアでは、食品素材事業、バイオ分野での取り組みなど、過去からの取り組みや既に始まっている事業も含まれます。それぞれの分野で、代理店型の仕事もあれば、製造に携わる仕事もあり、更にはAIを活用した新素材探索プラットフォーム「TABRASA™」のような、いわゆるコト消費と呼ばれるXaaS(X as a Service)のビジネスモデルもあり得るでしょう。NAGASEには化学業界で培ってきたグローバルなネットワークがあり、技術にも精通しています。大事なのは、NAGASEが秀でた点を最大限に活かして社会に貢献することだと考えています。

今後は3つの分野に位置付けられる事業への投資を強化していきます。投資判断の基準としては、ROICだけでなく、将来性や社会・環境課題との関連性など様々なものが考えられます。投資についても、従来の投資スタイルとは意識が大きく変わっていくものと思っています。

2つの変革を支える、DXの加速とサステナビリティ推進

2つの変革を支える機能として、①DXの更なる加速、②サステナビリティの推進、③コーポレート機能の強化を図っていきます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)については、それを目的とするのではなく、あくまでも今後の企業活動を持続的に行っていく上でのツールという位置付けです。ただし、どこにでもあるデジタル技術を単に導入するのではなく、NAGASE独自のプラットフォームを築いていきます。

その施策の一つがデジタルマーケティングです。NAGASEのこれまでの軸であった代理店型ビジネスは、今後間違いなく減っていきます。この危機感に対する打ち手として欠かせないのがデジタルマーケティングだと考えています。これは、インターネットでモノを売り買いするというEコマースだけの話ではありません。サプライチェーンにおいて市場との接点を広げ、ニーズを拾い上げ、NAGASEならではのソリューションを提供していくためのベースとなるものです。

この観点からも、「TABRASA™」が果たす役割は大きいと考えており、お客様が必要とする新規素材をNAGASEが製造したり、見つけてきたりするといったソリューション提案の広がりに期待しています。今後のDXとして、「TABRASA™」のようにサービスとして提案していくDXもあれば、ブロックチェーンを使って特定のサプライチェーンにおける安心・安全を実現していくDXも考えられます。こうした取り組みを通じたパートナー企業の皆様との協業により、社会・環境課題に対して大きな貢献ができると思います。

サステナビリティの推進については、「ACE 2.0」の期間中で終わるものではなく、これからずっと続く長い道のりと捉えています。NAGASEでは2021年2月に「サステナビリティ基本方針」を新たに策定しました。2020年6月に私自身が委員長となってサステナビリティ推進委員会を立ち上げ、国内外グループ会社や研究組織のトップと侃侃諤諤の議論を継続しています。ステークホルダーを明確に特定し、それぞれのステークホルダーに対する「重要課題(マテリアリティ)」を定めるプロセスは大きな気づきの機会となりました。具体的な非財務目標については今年度中に策定しますが、拙速に議論を急ぐことなく、グループ内での啓蒙も含めて一歩一歩着実に進めていくことが大切だと思っています。

激変する事業環境の中だからこそ、常に「誠実に正道を歩む」

新型コロナウイルス感染症の拡大により前例のない変化が起きている中、今、改めて経営理念に立ち返ることの重要性を痛感しています。「誠実に正道を歩む」。困難な状況にあっても、私たちの事業活動やステークホルダーの皆様とのコミュニケーションの根底にこの理念があれば、いずれは必ずいい方向に向かっていくと信じています。こうした状況だからこそ、全社を挙げて、誠実正道という理念を大事にしたいと思っています。

今後も、普遍の経営理念のもと、人々が安心・安全で快適に暮らせる温もりある社会の実現に貢献すべく、グループ社員一丸となって邁進してまいります。引き続き変わらぬご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

統合報告書2021

一括ダウンロード

統合報告書2021 一括ダウンロード PDF(6.8MB)

分割ダウンロード

  • 編集方針・目次(345KB)

  • NAGASEグループの価値創造ストーリー(2.2MB)

    NAGASEグループの価値創造ストーリー全体像 | NAGASEグループの社会的な存在意義 | 価値創造の歴史 | NAGASEグループのビジネスモデル | 重要な経営資源 | NAGASEグループが直面するリスクと機会 | 特集 未来を見据えた新たなビジネス | NAGASEグループが取り組むサステナビリティ経営

  • Shaping Value “質”の追求(1.8MB)

    CEO Message/トップメッセージ | CFO Message/管理担当取締役メッセージ | 未来を見据えたビジネスモデルの進化 | Shaping Value 1 収益構造の変革 | Shaping Value 2 企業風土の変革 | Shaping Value 3 変革を支えるコーポレート機能

  • 事業ポートフォリオ(2.7MB)

    事業一覧 | 機能素材セグメント | 加工材料セグメント | 電子・エネルギーセグメント | モビリティセグメント | 生活関連セグメント | 地域別戦略

  • サステナビリティ経営(1.7MB)

    Our Board/役員紹介 | コーポレート・ガバナンス | 社外取締役インタビュー | コンプライアンス | リスクマネジメント、責任ある宣伝とマーケティング | 変革を推進する人財の強化 | 環境価値の創出 | 人権・労働、働きやすい職場環境づくり、責任あるサプライチェーン | 社会貢献活動

  • データ・セクション(667KB)

    11年間の主要財務データ | MD&A | 主なグループ会社・事業所一覧 | 株式情報 | 会社情報