CFO Message

管理担当取締役 池本 眞也管理担当取締役 池本 眞也

資本効率性を高めサステナブルな企業体質に

2020年度の振り返りと2021年度見通し

2021年3月期を総括すると、NAGASEグループも新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、グループの様々な事業に関わる自動車産業が打撃を受けたことで、塗料原料や樹脂、自動車用途の部品などが国内外を問わず落ち込みました。一方で、第2四半期以降は、テレワークや“巣ごもり需要”を背景としたエレクトロニクス・樹脂関連が好調だったほか、健康志向の高まりも相まって医薬関連、食品素材関連が堅調に推移しました。

地域別でみると、第1四半期こそ厳しいスタートとなったグレーターチャイナでのビジネスが6月には回復基調に入ったことでグループの業績を牽引し、第3四半期の上方修正につながりました。米国の回復も想定以上に早く、2021年度は好調さを実感できるスタートになっています。しかし、経済回復に地域差が出始めており、日本が欧米や中国に遅れをとる可能性もあります。日本以外でビジネスをどう展開するかが鍵になります。

リスクと機会
半導体関連・食品素材関連を注視

NAGASEグループのビジネスは、今や海外売上高が50%を超え、地政学的リスクに対するエクスポージャーも高まる傾向にあります。米中対立の波を被る半導体関連、中国製品への依存度が高い食品素材関連の行方を注視しています。更に、自動車関連や化学品・樹脂事業における、環境対応などの世の中の動きと産業構造の変化もリスクになり得ると考えています。

しかしながらリスクはチャンスに変えられる可能性を当然のごとく秘めています。例えば半導体不足の影響で生産縮小が懸念されている自動車関連ビジネスでも、米国と中国のいずれにもグループのビジネス基盤があり、全体として力強い成長が実現できるものと見ています。外部環境の変化をただ指をくわえて眺めるのではなく、必要なタイミングで思い切った手を打てるのが強固な財務基盤を持つNAGASEの強みですので、しっかりとリスクと機会を見極め、成長のための必要な投資判断をしてまいります。

「ACE-2020」の総括
外部環境への依存度を下げる変革は「道半ば」

前中期経営計画「ACE-2020」では、連結売上高1兆円以上・連結営業利益300億円以上・ROE(自己資本利益率)6%以上という目標を設定し、取り組んできました。この事業規模に達するために必要な「収益構造の変革」、「企業風土の変革」を起こすという期待を込めた目標でしたが、結果として連結売上高が8,302億円、連結営業利益も219億円に留まりました。最終年度の状況下では決して出来が悪かったとは思いませんが、目標達成に至らなかったことは極めて遺憾であり責任を感じています。特に、従来の収益構造を変えるという点で物足りなさが残りました。

期中では手応えを感じた時期もありましたが、結局は外部環境による浮き沈みが大きいオーガニックビジネスに支えられ、外部環境に依存しにくいインオーガニックビジネスが思うように成長しなかったことが目標不達の真因だったと考えています。ビジネスモデル及び収益構造の変革は、2021年4月からスタートした新中期経営計画「ACE 2.0」において引き続き取り組んでまいります。

稼ぐ力の指標であるROEに関しては5.9%と目標の6%に限りなく近づきました。この結果は評価できると捉えていますが、投資家の皆様が求める水準にはまだまだ達しておらず、こちらも「ACE2.0」において更なる改善を目指します。

「ACE 2.0」で目指すこと
ROICの本格運用で収益性・効率性を追求

「ACE 2.0」では、前中計に引き続き「収益構造の変革」を掲げ、「収益性・効率性の追求」を通じて全社規模の事業入替と経営資源の再配分に取り組んでまいります。

具体的には、事業ポートフォリオを成長性と資本コストという2つの軸で「注力」「育成」「改善」「基盤」の4領域に分類し、「注力」「育成」領域の事業に資本を厚めに投入していきます。全投下資本の10%程度を「注力」「育成」に寄せていくイメージを持っています。また、稼ぐ力を上げるために資本コストを加味した指標としてROIC(投下資本利益率)の活用を本格化させ、基準となる資本コストを上回る事業に積極的に投資します。

ROICは、事業に投じた資金がどのくらいのリターンを生み出したか(投資効率)を測る指標であり、投資家の皆様のみならず、社内へのメッセージでもあると思っています。各事業の担当者にはそれぞれの想いがあり、事業の評価に様々な判断基準が存在するのは当然のことです。だからこそ、ROICという観点で事業価値を会社として客観的に認識できるかが重要になります。事業を100以上に切り分け、各事業のROICを計算し、PDCAを回しながら投資判断や事業評価のためのモニタリングと議論をする社内システムを運用していきます。

株主や投資家の皆様からは、ROICがマイナスの事業は撤退するのかというご質問をいただくこともありますが、短期的なROICのみで事業評価をするわけではありません。最終的な目的は企業価値が持続的に成長することですのでROICの評価期間は単年度ではなく複数年から中期としております。屋台骨であるオーガニックビジネスを大切にしつつ、基盤ビジネスで稼ぎ出したキャッシュを「注力」「育成」に配分することで、バランスをうまくとりながら資本を配分していくことが私の仕事になります。

NAGASEグループの場合、従来型の卸売ビジネスの特徴や市場の特性もあり、投下資本の中で運転資金の割合がどうしても多くなります。低い利益率も課題です。薄利の事業を増やすだけでは持続的な成長には限界があります。高利益率を実現するには、確かな技術に基づく高付加価値のビジネスを増やし、その付加価値が更に発展するような技術革新の基盤を築いていくことがポイントとなるでしょう。その意味からも、独自のDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みは付加価値を上げる重要な仕掛けになると考えています。

ROE改善はあくまでトップラインを追求

ROEについては、8.0%を達成目標としています。ROEを安定的・継続的に上げるには、やはりトップライン、つまり稼ぐ力を伸ばさなければなりません。ROICがプラスの事業に投資することでおのずとトップラインが上がり、ROEも上がっていくと考えています。WACC(加重平均資本コスト)をテクニカルに下げることで結果的にROEが上がったとしても、その継続性には疑問が残ります。ROEが継続的に上昇するような資本構造に変えてゆく必要があります。WACCを低位安定的にコントロールし、更に収益を上げ、ROEを継続的に向上させ、持続的な企業価値向上につなげていきます。

資本構造の更なる健全化については、投資家の皆様からもしばしばご指摘を受けるところです。とくにご指摘をいただくのが自社株や政策保有株など金融資産のコントロールです。とりわけ政策保有株については、順次見直しを行い、その結果得た資金を新たな戦略投資や借入返済に充てる、あるいは自社株買いにより株主還元を行うといった財務戦略を並行して実施していきます。こうした取り組みを続けることで、ROE 8.0%の目標は達成できると考えています。

サステナビリティを軸として「収益構造の変革」と「企業風土の変革」に邁進

「ACE 2.0」では製造業の生産性向上もグループの持続的成長には不可欠と謳っています。NAGASEグループの製造業では、これまでナガセケムテックス(株)と(株)林原が軸となっていましたが、2019年8月に新たにPrinovaグループが加わりました。更に2019年には国内のグループ製造会社間に横串を通す機能となるグループ製造業連携委員会(MCC:Group Manufacturers' Collaboration Committee)を設立し、安全衛生・品質・環境の分野においてNAGASEグループの製造業の質向上に取り組んでいます。更にDXを活用し、ディストリビューション、プロダクション、R&D(研究開発)で差別化を図っていこうとしています。

更に、NAGASEグループとしてこれからの成長のキーになると考えているのが技術開発力の発展、つまりR&Dの発展です。これについては、社内外の双方で実現していきます。社内のR&DというのはまさにNAGASEグループの技術開発そのもの。そして社外のR&D発展とは、お取引先の技術開発力をサポートし発展させるお手伝いをするという取り組みです。後者については、AIやデジタル技術の活用により化学・バイオ素材メーカーの新材料開発を支援する新素材探索プラットフォーム「TABRASA™」が果たす役割が大きいと考えており、お客様やお取引先が気づいていないニーズを提供することでNAGASEグループの付加価値を上げていけるようなDXとして活用・発展させます。業界全体が元気になれば、それがNAGASEグループに返ってくると考えています。

最後に、今やグローバルな課題となったサステナビリティの推進は「ACE 2.0」の重要課題の一つです。サステナビリティへの対応はもはや待ったなしで、社会のサステナビリティに対して真剣に向き合わなければグループの社会的な価値が希薄化し、時代に乗り遅れてしまうことが、まさに今、目の前に迫っているという危機感を強く抱いています。NAGASEグループの企業価値を持続的に向上させていくため、サステナビリティを軸としながら、引き続き「収益構造の変革」と「企業風土の変革」に邁進していく所存です。

統合報告書2021

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  • 編集方針・目次(345KB)

  • NAGASEグループの価値創造ストーリー(2.2MB)

    NAGASEグループの価値創造ストーリー全体像 | NAGASEグループの社会的な存在意義 | 価値創造の歴史 | NAGASEグループのビジネスモデル | 重要な経営資源 | NAGASEグループが直面するリスクと機会 | 特集 未来を見据えた新たなビジネス | NAGASEグループが取り組むサステナビリティ経営

  • Shaping Value “質”の追求(1.8MB)

    CEO Message/トップメッセージ | CFO Message/管理担当取締役メッセージ | 未来を見据えたビジネスモデルの進化 | Shaping Value 1 収益構造の変革 | Shaping Value 2 企業風土の変革 | Shaping Value 3 変革を支えるコーポレート機能

  • 事業ポートフォリオ(2.7MB)

    事業一覧 | 機能素材セグメント | 加工材料セグメント | 電子・エネルギーセグメント | モビリティセグメント | 生活関連セグメント | 地域別戦略

  • サステナビリティ経営(1.7MB)

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  • データ・セクション(667KB)

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