新入社員の皆さん、長瀬産業、NAGASEグループ各社への入社、誠におめでとうございます。WEB参加も含め、今日89名の新しい社員が参加しています。
皆さんをグループの一員として迎えることができ、私自身大変嬉しく思っています。
そして、近い将来、国内外のさまざまな場面で皆さんと一緒に仕事ができることを楽しみにしています。

皆さんは、昨日までアマチュア、そして今日からはプロです。
アマチュアとプロの違いは分かりますか?
ステークホルダー(お客様・社会・株主・従業員)に商品やサービスを提供し、その見返りとして報酬を頂くのがプロです。責任感、使命感、向上心を持って社会に貢献できるよう、仕事に対し向き合っていただきたい。そして、健康面、私生活などの自己管理を徹底することを忘れないようお願いします。

さて、私たちは今、未だかつてない変化の時代に存在しています。
本日は3つの大きな変化についてお話します。
皆さんはすでに想像がついていると思いますが、一つ目の変化は、「環境への意識の高まり」です。以前は、企業がお金を儲けること、経済活動をすることと、環境問題や社会課題にコストをかけて取り組むことは、本来切り離すことができた「トレードオフ」の時代でした。しかし今は、社会課題や環境問題に取り組んでいない企業は経済活動、つまりお金を儲けることが許されない「トレードオン」の時代に入っています。

二つ目の変化は、「デジタル化」。特に生成AIの誕生と、その実用化です。まさに技術イノベーションによる変化の時代です。私たちの生活が大変便利になる一方で、生成AIを使うためには沢山のデータセンターが、最先端の半導体を使うためには多くの電力が必要となり、今後電力不足が世界中の社会問題となっていくでしょう。
また、人間の労働機会がAIに置き換えられ、雇用機会が減少する時代にもつながっていきます。

そして三つ目の変化は、経済安保(金融や貿易が安全保障に利用される)、米中関係やウクライナ・ロシアの戦争、中国・台湾問題、イスラエルを中心とした中東情勢などの地政学リスク、そして昨年までのCOVID-19のようなパンデミックなど、日々が有事の時代に突入しました。これまでの常識は過去のものとなって、猛スピードで新しい常識、ニューノーマルが形成されています。かつては、企業というものは、一度トランスフォームすれば10年くらいは繁栄できると言われてきましたが、もはやその時代は終わり、今は生き延びるために常にトランスフォーム、つまり変革をし続けることが求められています。NAGASEも例外ではありません。

新入社員の皆さんは、入社する前から一緒に変革を進める仲間と期待されてNAGASEグループに入社しています。
皆さんには成長し続けるという情熱をもって、一日も早くNAGASEグループの、変革のドライバーになってほしいと期待しています。
このようなトランスフォームする時代だからこそ、われわれが大切にしなければならないのが、会社のアイデンティティでありパーパス(目的)です。
われわれNAGASEはサステナビリティを実現するために、ものづくりのお客様の課題を、素材やマテリアルで解決する企業グループであり、これがわれわれのパーパスです。

ここで、この会社の歴史について少しお話したいと思います。NAGASEは今年で創業192周年を迎え、2032年には200周年を迎えます。私は8代目の社長になります。NAGASEは1832年に京都で着物用の染料問屋(当時は紅花の赤)として創業します。その後、天然染料から化学染料、有機染料から合成染料へと変わっていき、まさに化学業界が勃興している時代に、我々は日本、海外で化学品の取り扱いを展開してきました。1900年になると化学先進国である欧米の大手化学メーカーから商権を獲得し輸入ビジネスを開始してきました。1970年には国内での海外メーカーとの合弁で製造業を立ち上げ、自社でもその後メーカーをいくつも立ち上げています。1990年には自社で研究所を作り、有機合成、生化学、バイオの研究に力を入れてきました。2010年以降はM&Aを活用し事業拡大を進めナガセヴィータ(旧林原)やアメリカのプリノバをグループジョインさせ、企業価値を拡大してきました。伝統は守りつつ、前例踏襲しすぎず流行に流されすぎず、時代に合わせて変容してきているのです。


世界には200年を超える企業が約2,000社、日本には1,340社あり、世界の老舗企業のうち65%が日本にあるそうです。そしてNAGASEもあと6年でそこに仲間入りします。
NAGASEが、この190年以上で積み重ねてきたものとは一体何か。
日本企業の平均寿命が約30年と言われていることに対し、NAGASEが190年続いたことには理由があります。それは紛れもなく、お取引先や社会からの信用です。世界中の人や企業との信頼関係と、そこにリーチできるネットワークこそが、190年間、先人たちが積み重ねてきて得た財産だと思っています。ビジネスや商いの世界において、スタートアップ企業が一番苦労するのが「信用」です。努力して手に入るものではないからです。この最も大切な信用という財産を、皆さんは今日から無償で引継ぐことができるのです。ところで、「信用とは何か」と考えたとき、それはシンプルに約束を守りつづけること、決して裏切らない、ということです。約束の日にお金を支払い、約束した納期に約束した製品を納める。ビジネスや商いのすべては、約束を守ることで成り立っています。これを190年間守り続けてきた、まさに経営理念にある「誠実に正道」を歩んできたからこそ、NAGASEはすべてのステークホルダーに信用され、「困ったらNAGASEに聞こう」と言って頂ける現在の姿になったといえます。君たちも近い将来、この信用を大いに活用し、たくさんの人から学び、新しいビジネスや商品、サービスをデザインしてくれることを期待しています。

ここまで、皆さんは今日からプロであること、私たちは未だかつてない変化の時代にいること、当社の190年という歴史のこと、われわれNAGASEはだれかということについてお話してきました。
最後に私の経営哲学と皆さんへのアドバイスで締めくくりたいと思います。

私の経営哲学は「ひとと仕組みをつくる」ことです。
NAGASEにとって、人は命であり、魂です。人をつくることがNAGASEの成長に直結していると信じています。人を育て、NAGASEグループを持続的に発展する仕組みを作ることが、私にとって最も重要な仕事であると考えています。
そこでNAGASEの命であり魂である皆さんに、3つのアドバイスをします。

まず一つ目です。私も入社した時、雑草でした。雑草とは、その才能がまだ発見されていない植物のことを言っています。私は生意気な雑草でした。どんな大学を出ようと、どんな家庭に育とうと、どんなにスポーツができようと、社会に出れば皆さんも雑草からのスタートです。人から社会人としての長所や才能を見つけてもらって見出してもらって初めて植物になれます。きっと自分たちが思っていることとは違う、いろいろな才能を、先輩やお取引先、ステークホルダー皆さんが発見してくれると思います。そのためには、自分が与えられた仕事を一生懸命に、使命感と責任感を持って、きっちりと全うするようにしてください。

二つ目です。この会社は「やりたいことがあればやれる会社」です。そしてチャレンジした失敗は許容する企業文化があります。皆さんがやり遂げる強い意志と覚悟を持っていれば、上司や先輩はあなたの挑戦を後押ししてくれます。なぜなら、私もそうしてもらったからです。そして、もし失敗したら、その失敗の真因をよく分析し、考えてほしい。そして、その真因を上司や仲間にシェアしてください。それでOKです。チャレンジした失敗は、まさに生きたケーススタディであり、この会社にとってデータです。データを蓄積すればするほど、この会社の成功の確率は上がります。失敗を恐れず、果敢にチャレンジしてほしいと思います。

三つ目のアドバイスはシンプルです。皆さんに読んでいただいた課題図書にあったように、何か問題が起きたとき、しっかりとオーナーシップを持って考え、主体的に行動してください。これから人生で楽しいこと、辛いこと、逃げたいこと、いろいろなことがあると思いますが、常に己を戒めて、健康面、私生活などで自己管理するようにしてください。

今日、この入社式に参加している89名は、今後20年、30年経っても同期です。生涯を通してかけがえのない仲間になります。ある時は相談し、ある時は支えあい、そしてある時はライバルにもなるでしょうが、是非ともこの絆を大切にしてください。困っている人がいたら必ず助けてあげてほしいと思います。

皆さん、改めまして入社おめでとうございます。
以上で私からの挨拶の結びとさせていただきます。

最後にもう一言、皆さんはすでにNAGASEの信用と看板を背負っている社会人です。自覚を持って行動するようにくれぐれもお願いします。

2024年4月1日
上島宏之