CFO Message

管理担当取締役 池本 眞也管理担当取締役 池本 眞也

基盤事業と注力・育成事業のバランスをとり、強靭な収益構造に変えていく

事業ポートフォリオの面からACE 2.0の1年目を振り返る

ACE 2.0の1年目は、NAGASEグループが持続的に成長するために地力をつけることを目指し、自分たちの土台・基盤を改めて模索しながら、まずは進んでいこうというフェーズでした。業績的には伸びましたが、市況の上昇といった追い風の影響も大きかったからだと分析しています。ただその上で、外部環境が激変する中でも誠意を尽くして顧客と向き合い、約束をしっかり守ったこと、つまり経営理念にある「誠実に正道を歩む」ことを実践し続けてきたことが利益の源泉になったと自負しています。

前中期経営計画ACE-2020から地道に続けてきた取り組みの延長線上に、次の未来があるという手応えも、この1年で感じ始めることができました。NAGASEグループでは、多種多様な事業ポートフォリオを成長性と資本コストの2軸で「改善」「基盤」「育成」「注力」の4つの領域に分類しており、基盤領域とする化学品・樹脂のビジネスを大事にしながら、注力・育成領域に資本を厚く投入し、成長し続けることを目指しています。その注力領域としてACE 2.0ではバイオ関連事業、半導体事業、食品素材事業を挙げており、1年目からこれらに対する資本投下を促進したことで、事業ポートフォリオの入れ替えが進んでいます。

半導体は長らく注力してきた分野ですが、今後は収益性の高いビジネスにしていくことがポイントになります。NAGASEグループが提供するエポキシ樹脂などの材料は半導体の生産プロセスに深く入り込んでおり、半導体業界で強い事業基盤を作りたいと考えています。とりわけ中国は力を入れるべき巨大市場です。米中摩擦をはじめ不安定な状況ではあるものの、これまで地道に取り組んできた半導体事業が、いよいよ中国で花開く、その力強い手応えを感じています。一方、米国の半導体市場は生産プロセス技術の6〜7割は日本企業が手掛けています。今後、中国への警戒感から米国への生産シフトは加速するでしょう。装置や素材は日本企業が強みを有していることから、日本の半導体装置・素材の米国での需要はさらに高まると考えています。当社として中国への期待は続くものの、米国での半導体産業にどう参入していくかは一つのチャレンジになると思っています。

食品素材事業は、ACE 2.0を象徴する変革の一つです。㈱林原の買収で基盤を固めてきたところに、Prinovaグループを買収し、内外に存在感を示しました。Prinova関連では2つの事業買収に加えて米国ユタ州にスポーツニュートリションの製造工場を新設し、事業が拡大しています。スポーツニュートリションという新カテゴリーを加えたことは、NAGASEグループの収益にも大きなプラスをもたらしています。

ROE目標達成への見通しと判断軸としてのROIC

ACE 2.0では最終年度の2025年度までにROE(自己資本当期純利益率)8.0%という目標を掲げています(2021年度実績7.7%)。併せて、WACC(加重平均資本コスト)を上回るROIC(投下資本利益率)の達成も目指しています。私としては、解決すべき課題はまだまだあるものの、8%は達成できるとみています。

一方、ROICについてはACE 2.0で経営判断の指標の一つに採用しました。そこで、従来の事業を細かく切り分けてROICを注視し、基盤領域であっても高い付加価値を提供できる事業については、注力・育成領域に移行するなど、事業ポートフォリオの入れ替えを見極めています。NAGASEの技術を支える基盤事業などの重要なビジネスについては、ROICが低いからといって即撤退するわけではなく、まずはROICの改善を目指します。

2021年度は、ROICが4.2%から5.3%へと改善しました。運転資本の増加により投下資本は増えましたが、その適正化に向けて在庫管理を継続して徹底します。また、WACCは5.7%から5.5%まで低減しました。総じて、ACE 2.0の定量目標の一つである営業利益350億円には到達したものの、効率性の観点ではまだ課題があると認識しており、“質の追求”を推進していく考えです。

資本投下の優先度や事業の入れ替えなど投資の判断軸としては、まずROICを入り口と考え、その意識を全社で浸透させる取り組みを進めています。既に一定のビジネス単位でROICを算出できるシステムを構築し、BIツール※を活用したモニタリングを始めています。ACE 2.0が進むにつれ、徐々にROIC思考が浸透していくと確信しています。

※Business Intelligenceツール:企業が持つ膨大なデータから必要な情報を集約し、分析・見える化することで経営や業務に役立てるソフトウェア

アセットの入れ替えでビジネスを磨き上げる

NAGASEグループのDNAである発想力やチャレンジ精神を後押しする意味でも、新規の投資案件はこれからも増やしていきます。ACE 2.0では1,500億円の戦略的な成長投資枠を設け、5年間で投下していく考えで、アセットの10%をROICや成長性が高い注力・育成領域に入れ替えていきます。

製造業の充実を図るため、M&Aも意識しています。投資に際しての基本的な判断基準はROICですが、例えば顧客基盤の維持・拡大に欠かせない特定の基盤事業など、ROICだけで判断すべきではない事業もあります。そのような事業に対しては、NAGASEグループの中長期的な成長の観点を踏まえた適切な判断をしていくことが、財務担当役員としての重要な役割であると認識しています。

株主還元施策については、これまで行ってこなかった自社株買いを2年続けて行い、配当を中心とする株主還元からの転換を図っています。配当と自社株買いを加味した総還元性向は40%を超える見通しです。また、資本構造のさらなる健全化につながるところでは、政策保有株式の圧縮を年間60億円を目安に進め、ACE 2.0の5年で300億円の縮減を予定しています。既に着実に実行しており、引き続き推進していきます。

「グループ製造業経営革新室」のミッション

2022年4月1日付で、NAGASEグループ製造業各社の基盤強化に向け2019年に発足したグループ製造業連携委員会を深化させ、新たに本社組織として「グループ製造業経営革新室」を設立しました。

NAGASEグループでは利益の半分程度を製造業が占めています。グループ全体における製造業の規模と影響力は年々増しており、連結業績に占める割合も高まっていますが、その一方で製造業をまとめる力が弱いと感じていました。それぞれが語り合う言語や文化が共通しておらず、目標も共有されているとまでは言えなかったため、グループとしての総合力を高める目的でこの組織を立ち上げました。

目指すところはグループ製造会社の管理ではありません。各社が個々に成長し、総合力を高めていくための共通基盤を構築することが狙いです。

グループ製造業として新たな価値を創出していくために、多様な価値観や尺度を共通言語をもって議論できるよう、まずは現状を経営的視点から把握していきます。具体的には、グループ製造業における開発から生産・品質保証活動に至るバリューチェーン評価や、共通する経営指標の把握、多様な製造プロセスの理解・共通化などから始めています。

既に各グループ会社からは期待の声が上がっており、NAGASEグループを一層強くしていく重要な機能として捉えています。

誠実に正道を歩み、NAGASEグループの価値を示し続ける

NAGASEグループがこれからも皆様に選ばれ続けるためには、NAGASEグループ自体がサステナブルな会社であることが求められます。現在取り組んでいるサステナビリティにつながる事業を引き続き推進していくとともに、全てのステークホルダーの皆様にNAGASEグループの存在意義に共感していただくことが必要になります。そのためにも、アセットの入れ替えを適切に行いながら強靭な収益基盤を構築し、社会に対してサステナブルな付加価値を提供し続けなければなりません。

繰り返しになりますが、NAGASEグループが重視すべきは一人ひとりの従業員に根付いた「誠実に正道を歩む」ことだと思っています。これまでも、自分たちが誠実でなければサプライチェーンの中で存在感を生むことはできなかったでしょう。正道を歩んでいなければNAGASEとしてのアイデンティティを失っていたはずです。この精神がなければ、2032年の創業200年を迎えることはできません。「誠実に正道を歩む」―この言葉を肝に銘じ、これからもNAGASEグループの存在意義を社会に示し続けてまいります。

統合報告書2022

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  • 編集方針・目次(828KB)

  • NAGASEグループの価値創造ストーリー(905KB)

    NAGASEグループの価値創造ストーリー

  • マネジメントメッセージ(1.5MB)

    トップメッセージ | 管理担当取締役メッセージ

  • NAGASEグループが選ばれる理由(4.5MB)

    WHAT/NAGASEグループの強み | NAGASEグループの存在意義 | 価値創造の歴史 | NAGASEグループのビジネスモデル | 重要な経営資源 | HOW/NAGASEグループの成長戦略 | 中期経営計画の概要と進捗 | 特集 Prinovaグループが牽引する食品素材ビジネス | 特集 成長の鍵を握るNAGASEのバイオ技術 | WHERE/NAGASEグループが目指す未来 | サステナビリティ推進本部 本部長メッセージ | NAGASEグループが取り組むサステナビリティ | マテリアリティとKPI | コーポレート・ガバナンス | コンプライアンス | リスクマネジメント | 社外取締役インタビュー | 環境価値の創出 | 特集 サプライチェーンにおける脱炭素への貢献 | 社会価値の創出 | 特集 NAGASEのDX推進組織 | 社会貢献活動

  • 事業ポートフォリオ(2.9MB)

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  • データ・セクション(1.6MB)

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